イラスト/たまき

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【Sexless and the CITY】元アイドルかなえ36歳

東京美人ママのセックスレス女子トーク

※取材に基づいたフィクションです




◆Vol.1元アイドルかなえ36歳



「セックスレスと言えば、アイドル時代も私セックスレスだったな。彼氏はいたけど、処女だったから。でも、結婚して旦那と息子がいて2人目不妊の今とは全然違うよね。エロい経験もできた」

大きな瞳でまっすぐこちらを凝視しながら話すかなえは、元アイドルだ。

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処女アイドルはチヤホヤされてるのにレスの妻は無価値

正確には、大手モデル事務所所属のモデルとして地方局の麻雀番組のアシスタントをしていたとき、番組の企画としてアイドルグループを組まされ、2曲だけCDを出している。

番組の司会者は元サッカー選手で、番組内ではモデル系のアシスタントはブルーのタンクトップとミニスカート、地方局の女子アナウンサー陣はTシャツとハーフパンツと、露出度の違いから微妙な格差が滲むグループだった。

あの時は確か1999年、現在36歳のかなえは短大1年生の18歳だった。アイドル冬の時代が終わりかけ、街には『モーニング娘。』の「LOVEマシーン」が流れていた。

「ネットでは、処女のアイドルなんていない、てよく聞くけどさ、それなりにいるよね多分今でも。拒食症のモデルと同じくらいの割合で」

桜色のムースを大人っぽいブルーミングピンクに染めた唇に運びながら、いたずらっぽく鼻にシワを寄せる。

そんな顔をすると、さすがにもうアイドルは無理でもまだリポーターくらいイケるんじゃないか? と思うくらい可愛いかなえだが、今の職業は、睫毛にエクステを施すアイリストだ。

お金の為というより趣味の延長と、3歳の息子を認証保育園に入れる口実のために友人の経営するサロンに週2日だけ出勤している。

「まぁ、欲、だしね。食欲も性欲も」

と答えると、

「やせていることほどおいしいものはない、てケイト・モスも言ってたし」

とすかざず返ってくる。

こういった頭の回転の早さも、煙草のキャンギャルから連ドラ主演まで1,000名以上所属する大手モデルエージェンシーで、お偉いさんに可愛がられ仕事が途切れなかった秘訣のひとつだろう。

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昔みたいにチヤホヤされるなら別にSEXはなくてもいい?

「多分、食欲や性欲より、承認欲求のほうが強いんだよ。もしチヤホヤしてもらえるんだったら、今も昔も別にヤらなくていい」

かなえは、18歳当時を回想し夢見るような目をして語り始めた。

「あの頃はさ、“可愛いのに処女”てことがステイタスだったから、そりゃ、楽しかったよ。

覚えてる? 私の短大の頃の彼の藤井健太。1個年下のC大学(地方国立大学)のサーファー。細マッチョでかっこよかった。でも所詮田舎の子だからさ、アイドルなのに処女って聞いて、もうめちゃめちゃ感動してお姫様扱い! 

見た目チャラそうなサーファーのお兄ちゃんが、幼稚園児みたいに上目遣いで

「手、握っていい?」

て聞くんだよ。それで涙ぐんで

「手を握るだけで涙が出そう。こんなのほんとに初めてだ」

とか言うの。

イラスト/たまき

だから私、彼の手を引き寄せてさ、

「爪の形キレイだね」

って、爪の付け根にキスしたんだ。5本全部に、唇を軽く付けるくらい……。セックスするよりエロかった。彼の感極まった顔も含めて過去最高にセクシーな経験かも。

ウケるよね。ただ、セックスしてないってだけなのに壊れ物みたく優しく扱ってくれて。あーあ、千葉の藤井ちゃん元気かなー」





逃した魚は大きい? 昔の男は夫よりよく見えるのか…


かなえとは、青山のヘアサロンのヘアショーに、カットモデルとして出演した縁で出会い、もう20年以上の付き合いになる。当然、元彼も、知っている。

SNS情報によると、藤井は大手電機メーカーに就職してOL雑誌の読者モデルをしている同僚と結婚したらしいよ、と告げると、ちょっと苦い顔をした。

「けっこうエリートになってんじゃん。あんなに田舎っ子だったのに。惜しいこと、したな。

旦那の慶太なんて、K大学(有名私大)とはいえ一浪だし社会学部だし、新聞記者ってほんと帰ってくるの遅くて子育てはあたしに丸投げな上、どこに飛ばされるか分かんないしさ。藤井ちゃんと結婚しとけばよかったなー」

と、逃した魚は大きい発言をするが、実情は、かなえのあまりのプライドの高さに藤井が逃げた形で終わったはずだ。

嫉妬から、藤井の旧友の女友だちを「レベルが低い」とこき下ろす発言を繰り返し、束縛しようとして泣き喚いた過去は、かなえの中からはきれいに消えているようだ。



36歳でセックスレス4年目! でもそんなことより2人目が欲しい

「なんかやるせないよね。18歳のアイドルが、生理が来て生物学的にSEXできる体になってから4年してなければお姫様扱いで、36歳の主婦が4年SEXしてなくても、もはや“かあちゃん”扱いだよ。

今日って何日だっけ? やばい昨日慶太の誕生日だ。ってことは、セックスレス4周年記念日じゃん。カンパイ! 」


恵比寿のフレンチ『Les gens』のランチコースは、2,500円でスパークリングワインがついてきた。かなえは、自虐的にグラスを掲げてから、コク、コク、コクと白く細い喉を鳴らし飲み干した。

「もうね、セックスレスはどうでもいいの。そんなものはお互い自己処理できるでしょ? 倫太郎の下に、もうひとり女の子が欲しいんだよ」

「自己処理、って……」

思わず忍び笑いを漏らし隣の席を伺う。談笑する年配の夫婦には聞こえていないようで安心した。

「旦那とセックスしたいというより、ダブルインカムツーキッズ! 今のあたしが欲しいステイタスはそれなの。義理の母に似た倫太郎だけじゃなくて、あたしに似た女の子が欲しいんだよ」

「ダブルインカムツーキッズ」とは、最近、新聞や雑誌で“理想的なライフスタイル”としてとりあげられることもある、共働きで2人子どものいる夫婦のこと。バブル時代にオシャレとされていた、共働きで子どものいない夫婦「ダブルインカムノーキッズ(DINKS)」をもじった造語だ。

酔った勢いで声が大きくなるかなえを制し、体外受精を提案してみた。





仲は悪くないけれどもはや兄弟姉妹のような関係の夫婦


途端に、かなえは口を尖らせる。そんな仕草をすると、20代と変わらず愛らしく見えても昔はなかった細かな皺が出現する。

「慶太、自然に任せたい。授かりものだから。とかいうんだよ。乙女かよあいつ。そのくせ、布団の中でさりげなく背中にくっついたりしてやんわり誘うと、甘えた声で、“今日疲れてる~”、とか言うんだよ。

イラスト/たまき

まぁ、私も悪いんだけどね。

息子の倫太郎のこと“チビちゃん”て呼ぶことがあるんだけど、夫の慶太のことはたまに“ちっちゃいちゃん”て呼んでるの。

ソファに寝転んだまま机の新聞とりたくて届かなくてバタバタしているのとか見るとなんか可愛くてさ、“どうしたちっちゃいちゃん、とってやろうか?”とか笑いながら言っちゃうんだ。

仲はいいんだよ。猫のツナも、息子の倫太郎も可愛がってるし、たまにじゃれあったりもするしね。でも弟というか妹みたい? そりゃ、レスるよね」

かなえの夫の慶太は年齢は2歳年上の38歳、歌舞伎役者のような端正な顔をしたイケメンだが、172cmのかなえに対し、168cmとやや小柄だ。

姉が2人いる長男だが、東京育ちで、「ごきげんよう」という挨拶が似合うセレブ御用達大学Gの付属の小中高校から、一浪の末、難関名門私大に進んだ坊ちゃまらしいおっとりした性格は、かなえの両親にも受けがいい。

ただ、千葉が実家のかなえに対して、奥沢の慶太の実家にほど近い二子玉川の賃貸マンションに住んでいることも、かなえの不満のひとつだ。

夫に、千葉に帰りやすい品川あたりのタワーマンションを購入したいと伝えても、のらりくらりとかわされる。

いくら新聞記者が転勤が多いとはいえ、いずれ、二世帯住宅を建てることを念頭に置いているようにしか思えない、と不満そうな顔をする。



不妊治療の誕生日プレゼント? イベント化しないと動かない夫

ふと、慶太がプロポーズをしてくれないと焦っていた29歳のかなえによく似たアドバイスをしたことを思い出す。

「お誕生日に、結婚式もやっているディナークルーズに行って、ついでに式のデモンストレーションも見て帰るプランを組んじゃいなよ。あとは、式場の担当者が、いい感じの話術で後押ししてくれるよ」

船舶免許を持っているほど海好きな慶太は、海の見える店が大好きだ。

あの時のアドバイスが実を結んだのかは謎だが、半年後に、かなえは無事結婚した。会場は、船上ではなくウェスティンホテルだったが。

「慶太君は優しいんだしさ、イベントにしちゃえば? いい医者のいる産婦人科を見つけてさ、かなえのお誕生日に、海の見えるレストランに行ってから産婦人科に流れるコースにしちゃいなよ!」

もう一度、よく似た提案をしてみた。

「かなえ、AIH、って知ってる? 採取した精子を婦人科に持って行って、濃縮してから医師が子宮内に注入するんだけど。これって、体外受精と違って自然妊娠とあまり変わらないし、値段も1回2万か3万くらいだよ」

そう伝えると、かなえは大きな目を輝かせて身を乗り出した。もはや、悩みの大部分は、セックスレスというより、2人目不妊に傾いているようだ。



欲しいのはスキンシップより男女の子どもを2人持つステイタス?


結局、その日はランチコースを食べながら、近くに海とレストランのある、産婦人科をピックアップしてレシートの裏にメモをした。

恵比寿駅で別れてから、ふと、彼女が地元の国立大生の藤井と別れた直後、素朴なサーファーだった藤井が漏らした言葉を思い出す。

「かなえちゃんは、清純だし可愛いし夢みたいな女の子なんだけどさ、女のプライドが濃すぎてさ、一緒にいるとこっちの…男のプライド? 削られてるみたいな気がすんの。萎えるよね」

清純で可愛いアイドル、ということがなにより大事だったかなえ。今は、品川のタワマンに住む男女2人の子どもを持つ夫婦、とやらがプライドを満たしてくれるのだろうか。

ダブルインカムツーキッズ。DITKS。随分と語呂の悪いステイタスだ。

星子

ネットメディア中心に活動中のママライターです。
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