Illustration by 藤峰やまと
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「浮気しといて、なんなのその態度」妻がブチ切れした夫の身勝手な発言とは?
第7話:浮気にかまってる暇なんてない
日が暮れた19時、さらさの実家。
スーツを着た宗太が、目の前にいる。
ひなたをお風呂に入れて出てきたら…
母「さらさ、宗太さんが来たわよっ」
さらさ「え!?」
テンパっている様子の母に、さらさも声をあげる。
母「とりあえず、居間に通すから…早く着替えてひなたは私に預けなさい」
さらさ「うん!」
そんなこんなでバタバタと、気が付けばさらさはパジャマのまま、宗太と向き合っていた。
宗太が、さらさの顔色を伺いながら重い口を開く。
宗太「…もう、1週間だぞ」
しんとなり、お互い探るような空気感が漂う。
(浮気のこと、宗太の口から言ってほしいけど)
ひなたを母に見てもらっているので、すったもんだしている時間がない。
(来るタイミング考えてよね…)
少しイライラしながら、さらさは話を切り出した。
さらさ「あのさ…沙彩と浮気してるの、知ってるよ」
宗太がぎょっとした目をする。
さらさ「はじめはムカついたけど、いや、今も思い出してめちゃくちゃ腹立つんだけど」
宗太が息をのむ。
さらさ「沙彩を問い詰めるつもりはないし、宗太も問い詰めるつもりはない」
宗太「…え?」
さらさ「もう、宗太にかまってる暇ないの。それどころじゃなくなったの」
宗太が驚いたように、目をパチパチさせた。
さらさ「…なんか言ってよ」
宗太「いや、想像を超えた展開で…」
さらさは宗太に自分の気持ちを話しているうちに、次第に心が落ちついてくるのを感じた。
(ここまできたら、さくっと言いたいこと言って帰ってもらおう)
さらさ「あの、浮気した罰として自由にさせてほしい」
宗太「自由?」
さらさ「3カ月、里帰りさせて。私、ずっと夢だった自分でセレクトしたネットショップを始めることにしたの」
宗太がさらに目を見開く。
状況が呑み込めないといった感じで口を開いた。
宗太「いや、色々聞きたいことあんだけど…ひなたはどうすんだよ」
さらさ「お母さんと二人三脚で育児もネットショップも3カ月はがんばるつもり。だから心配しないで」
そんなの無理だろといったように宗太が息をついた。
その態度に、またムカっとくる。
さらさ「私この3カ月間、宗太のこといらないから。帰って」
さらさは立ち上がり、リビングの扉をあけると、宗太に帰るよう促した。
宗太はしぶしぶ玄関まで行くと、靴を履いてさらさを振り返る。
宗太「俺のせいっていうのは分かってる。けど…夢、描くのいいけど、現実見たら戻って来いよ。ひなたもいるんだから」
(はあ…?)
優しいのか、空気が読めないのか、どの立場で物を言っているのか
理解できない態度にますます腹が立つ。
さらさ「浮気しといて、なんなのその態度。ほんとに帰って」
宗太「いや、まあ……」
宗太はそれ以上返す言葉がないのか、玄関を後にした。
玄関のドアが閉まると同時に、ひなたを抱えた母がやってくる。
母「なんだって?」
さらさ「夢描くの良いけど、現実見ろよって…」
母がひなたをぎゅっと抱きしめる。
母「さらさ、死ぬ気でがんばんなさい。あの男を見返しな!」
いつにも増して頼もしい母に、ふっと笑いがでた。
同時に、ふつふつとやる気がでる。
(子育てと宗太のことでいっぱいいっぱいだったけど…)
外に目を向けたら、広い景色が広がっているような気がした。
(まだまだ泣きそうになることはあるけど、落ち込みっぱなしは良くない。沙彩も宗太も、見返してやる!)
さらさ「がんばる!とりあえず、ひなたが寝るまでは育児タイム」
さらさは、母からひなたを抱き寄せるとぎゅっと抱きしめた。
それからというもの、さらさの生活は一変した。
インスタグラムで売れているネットショップにDMを送り、短時間、短期間でいいから働かせてもらえないか打診していた。
(でも、返事なし……)
アパレルはド素人も同然。誰も相手にしてくれるはずなどなかった。
大学時代を思い起こし、ブランドPRをしている友人にアポをとりつけるも、小さい子どもがいてのアパレル業界の下積みは、それ相当の覚悟がいると説得されるだけだった。
(八方塞がりのまま、1カ月…)
(まだショップの具体的なアイデアも浮かんでないよ)
ベビーカーで眠るひなたを連れ、近くの雑誌が読めるカフェに入る。
デカフェコーヒーをピックアップし席に着くと、そばのラックにかかったmamagirlを取った。
中には、ネットショップで成功し読者モデルとしても活躍するインフルエンサーママが微笑んでいる。
(子ども服や韓国服のネットショップはみんなやってるし…)
(どうしたら、この人たちみたいになれるんだろう)
すると、その時…
「ハワイに行くんだけど、今は冬じゃない?水着売ってないのよー」
隣で幼稚園の子どもたちを送り出したのか、おしゃれなママたちの話し声が聞こえた。
「水着なら、銀座のデパートに1年中水着売ってるコーナーあるわよ」
「知ってるけど、高いじゃない?せっかくだから2~3枚気軽に着られてインスタに映えるような水着が欲しい」
聞こえてきた会話に、ぱっとアイデアがひらめく。
(み、水着…!これだ…!)
一気に高揚した気持ちで、アイデアがどんどん降ってくる。
(年中やってる水着ネットショップはまだ見たことない)
(即日配送で低価格、急なバカンスにも対応したらいけるかも)
mamagirlを閉じると、さらさはコーヒーを一気に飲み干す。
(そうと決まれば行動に起こさなきゃ。水着の仕入れを徹底的に探そう)
座ったばかりの席を立ちあがり、ベビーカーを押しながら店を後にした。
同じとき。
宗太は、会社の上司から呼び出され会議室にひとり座っていた。
大きな会議室でひとり、待たされる。
斉藤「木部君、すまんね。ちょっと紹介したい人がいて」
上司の斉藤がにこやかに入ってくると同時に、立ち上がった宗太は、首を横に振る。
宗太「いえ」
斉藤「まあ、座りなさい」
上司は手を上下させると、扉を見た。
斉藤「入ってきなさい」
入ってきたのは……
???「はじめまして」
つづく
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ライター。ファッション雑誌、作詞提供、携帯ゲーム脚本など書くことを仕事にしています。現在、おてんば娘に振り回され中。
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