Illustration by 藤峰やまと
Entertainment
バレても不倫を続ける夫「…今日は帰って」キスをねだる不倫相手に放った言葉の真意は?
8話:怒涛の大ドンデン返し
「はじめまして」
会議室に呼び出された宗太の前に、30代半ばのすらっとした女性が現れた。
グレーのリクルートスーツに、髪をハーフアップにあげ耳元に小粒のパールをつけている。
(同期を紹介するにしても、こんなとこ呼び出さないしな)
斉藤が、いつもより優しい口調で言った。
斉藤「新任上司の山田さんだよ」
宗太「上司?」
自分と年があまり変わらないように見える上司に、しかも女性に、宗太の心が少し穏やかじゃなくなる。
斉藤「いや、実はね。わが社も女性の社会進出を考えることになって。山田さんは、まだお子さんが2歳と小さいのだが、この業界では業績が優秀で有名でね。他の会社から引き抜いて、来てもらったんだよ」
山田が謙遜するように首を横に振る。
山田「いえ、そんな…。木部さんですよね?」
宗太「はい」
山田「上司と言っても、私はここでは初心者ですので」
山田「年も近いですし、どうぞチームメイトとして一緒にお仕事していただければ」
宗太「……はい」
(子育てしながらとか、大丈夫なのかよ)
宗太の中で、育児と仕事の両立は会社に迷惑をかけるという認識がまだどこかにあった。
それが女性の社会進出というだけで、自分のキャリアをいとも簡単に超えてきたような気がして、いい気はしない。
(熱が出たとかで、結局、俺がしりぬぐいするだけだろ)
宗太は感情を表に出さないように、小さく頭を下げた。
会議室を後にすると、ポケットに入った携帯のバイブが鳴る。
沙彩からのlineだった。
沙彩「宗太先輩、今日はうちに来ませんか?仕事早く終わりそう♡」
さらさに知られてしまったところで、沙彩との不倫関係は終わらなかった。
むしろ、ますますのめり込んでいる自分がいた。
しかし…
沙彩「あ、既読になった♡早く返事して♡」
遠慮のない沙彩に、少しうんざりする気持ちが出ていた。
ふと、さらさとひなたのことが頭に浮かぶ。
宗太は既読スルーすると、さらさにlineをした。
宗太「ひなたはどんな感じ?」
携帯をいじっているのか、すぐに既読がつく。
さらさ「元気だよ!ちなみにネットショップもオープンする予定!水着だと需要ありそうで。沙織にも相談中」
自立していくさらさが頼もしく見え、なぜか頬が緩む。
すると、矢継ぎ早に沙彩のアイコンが点滅した。
沙彩「既読無視はダメ! 来てくれないなら、家に行っちゃうからね!」
宗太は息をつくと、わかったとだけ返信した。
それから、1か月経ったある日……
さらさは、ネットショップを運営して1カ月が経とうとしていた。
インスタグラムとショップサイトと紐づけて、ブログも毎日更新。
水着は、ニューヨークにいた沙織に相談して安くてかわいいブランドを教えてもらい、仕入れ交渉をつたない英語でしていた。
フォロワー数はそれほどいないものの、コンスタントに注文が来るまでに。
ひなたをあやしながら、梱包作業するさらさは、注文書とにらめっこしながら、息をついた。
(注文はくるけれど、このスローペースじゃダメだよな…)
利益が僅かばかり出たとしても、次の仕入れに投資することを考えると自転車操業と変わらない。
稼ぎが出るまでにはなっていなかった。
さらさ「でもデザインはヒットなんだよなー、フォロワー数にしてはいいねが多い」
ぼそぼそ言うさらさに、母が笑う。
母「何言ってんのか分からないけど、来月はもう期限ですよ~」
さらさ「わかってる!分かってるってば」
さらさは少しの焦りを感じながら、梱包作業に追われていた。
その頃、宗太も仕事で変化が訪れていた。
山田「木部さん、この資料の箇所ちょっと違う気がして見直してみて」
宗太「はい」
新任女性上司の山田について1カ月。見事に仕事と育児を両立させていた。
山田「で、今日息子が熱で呼び出し。今から早退するんだけど、諸々のミーティングはビデオで参加します」
宗太「え!?」
山田「病児シッターさん呼んで家でどうにかするから」
宗太「大丈夫ですか?」
宗太が声をかけると、山田が笑う。
山田「大丈夫なわけないじゃない!でも、どうにかするしかない。悩むひまもないんだもん」
荷物をまとめて山田が立ち上がる。
山田「じゃ、また後で」
宗太の中で、山田とさらさの姿が重なる瞬間があった。
宗太「悩むひまないか…」
子育てしながら悩む暇もなく、仕事や家事に追われる。
山田のように完璧に仕事もされては、言い訳がいかない自分に気が付いた。
今、奮闘しているさらさのことが気になる。
(…俺、なにやってんだろ)
資料に目を通しながら、ぐるぐると頭の中が回った。
夕方……
宗太はいつものように家に帰ると、お隣の林さんと話している沙彩に遭遇する。
林「あら、木部さん」
宗太「!?」
目を見開く宗太に、林さんが続ける。
林「妹さんなんですって?お嫁さんが大変で手伝いにきてくれるなんて良い兄妹ね」
沙彩「いえ。兄がお世話になっております」
ほっと胸をなでおろす宗太を見ながら、沙彩がにっこりと笑う。
林「じゃあ、また」
沙彩を家に入れると、宗太は鋭い視線を投げかけた。
宗太「どういうつもりだよ」
沙彩「どうゆうって…迷惑だった?」
沙彩が宗太に抱きつく。
沙彩「そんな怖い顔しないで。私は宗太先輩に会いたかっただけ」
キスをねだろうとする沙彩に、宗太は顔をそむける。
宗太「…今日は帰って」
沙彩「なんで?私のこと嫌になった?」
沙彩の瞳にいっぱいの涙が溜まる。
宗太ははーっと息をつくと、沙彩を抱きしめた。
沙彩「やっぱり優しい先輩、大好き♡」
沙彩がうっとうしくなる。
宗太の頭は、さらさとひなたのことだけになっていた。
ネットショップは2か月も半分が終わろうとした朝…-
さらさは携帯を開いて、飛び起きる。
さらさ「えーーーーーーーーー!」
つづく
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ライター。ファッション雑誌、作詞提供、携帯ゲーム脚本など書くことを仕事にしています。現在、おてんば娘に振り回され中。
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